組曲「仏像のうた」
    山崎澍朗 作詞

Ⅰ. 如来像(にょらいぞう)
如来像 その前にぬかずきし
墨染衣(すみぞめごろも)の尼(あま)ひとり
(夕焼けの秋の陽(ひ)は
 御堂(みどう)の中にいとも寂か)
如来像 閉じた瞳にながるゝ光
そは澪(しずく)……あるはほゝえみ
(秋の夜の月の光は
 御堂の中にかくも寂か)
いづこにか虫の音色(ねいろ)
いづこにか読経(どきょう)の声
如来像 心のかげに鎮座(ちんざ)して
ほのかに光る如来像
(音もなく金色(こんじき)にゆらぐ灯(ひ)は
 御堂の中にあわれ寂か)
いづこにかただよう香り
しめやかにただよう香り

Ⅱ. 菩薩像(ぼさつぞう)
かなしみの色におゝわれて
あゝかの花の下(した)かげに
苦悩のうなじたれし像
赤々と赤々と
夕陽の光照らせども
訪(と)ふ人もなき野辺の像

いまひとり はるかより来し旅人が
ひざまづきて祈る像
きすらいながらその果ての
野原の像に祈る人
路(みち)のほとりにたたづみし
いにしえの いにしえの 仏の像

Ⅲ. 祖師像(そしぞう)
墨染の……墨染の
衣まといしその人よ
淡雪色(あわゆきいろ)のまなざしに
尊き人のいつくしみ
涙の色のまなざしは
しずかにひとり泣く心

墨染の……墨染の
衣まといし彼の人よ
無明世界にあえぐ目に
今日もうつりし その姿

この組曲は.龍大男声合唱団員であった山崎
澍朗氏(現在京都女子学園教諭)の組詩に,木
村四郎先生の紹介で早野柳三郎氏が龍大男声
のために作曲されたものである。
仏教情景曲ともいうべきこの曲は,如来,菩
薩,祖師の像をテーマに東洋的な旋律でフー
ガも入れ,また,絃楽四重奏の響きを思わせる
菩薩像は,単純なリズムの間をテノールとバ
スが交互にメロディーを歌いあげる。
嬉しいにつけ悲しいにつけ私達をいつも見守
って下さる如来,私達の苦悩を一身に受け,
人知れず野辺に立つ菩薩,そしていまなお私
達とともに喜び,悲しむ祖師の姿に深い思慕を
見いだすことが出来る。
 なお,如来像は昭和37年度関西合唱コンクー
ルにおいて第二位になった思い出の曲でもあ
る。

●如来‥‥‥真如(さとり)の世界から来られたお
方(仏のこと)
●菩薩……仏の次の位,さとりを求めて精進
しつつひとびとを導く人
●祖師……浄土真宗の開祖(親鸞聖人)
●無明世界……まよいととらわれの世界