組曲「愛別離苦」
    山崎澍朗作詩 早野柳三郎作曲

1.告別の庭
よき友逝きて
告別の庭にコスモス揺れ
わが肩に赤蜻蛉
ひそととまりぬ
空ふかく 明るく澄み
雲流れ 音もなく流れ
やがて君 土に還るや
よき友逝きて
秋の夜の酒に
とめどなく落つる涙よ

2.遠き鐘
春の日の夕暮れ時
友よ
われら 学び舎の窓に
のどかな鐘の音をきいていた

笑いさざめき 帰ってゆく少女たちの
背にゆれる髪 散りかかる
桜 花びら

あの時 われら
何を語っていたのか
四人いたのか 五人いたのか
一人のあいつは本を売り
一人のあいつは歌うたい
一人のあいつは教師とか
生徒たちに己れの果たせぬ 夢をとく
そして我は 未だつたない詩をかき
そして君は 誰も知らない 浄土へいった
今し我 ただひとり かの学び舎の窓に立ち
はるか昔を思うとき のどかに遠き鐘がなる
君を送るかのごとく
夕焼け空に鐘がなる 少年の日の鐘がなる

3.別れゆくは
別れゆくは哀しきと
離れゆくは苦しきと
古えの聖者は教えたまいし

かつて若き日
大いなる名を成さんと
安き酒に酔い痴れて
肩を組み
雪の夜道に歌ったが

時は移り
歳月は過ぎ
求めて得ざる苦しみばかり

君去りて 我残り
今さらに知る
別れゆくは哀しきと
離れゆくは苦しきと
今さらに知る 人の命の空しさを
人の世は生きるにあらず
生かされてあることを

4.星月夜
夏の夕べ
丘の上の空に
金色の星が一つ光っている
風が吹き
路傍に咲く小さな花が揺れる
果樹園のまだ堅い実に歯をあてれば
ほのかに苦い香り

丘につづく林の道を
誰かがゆっくりと歩いてゆく
はるか昔の君に似て

やがて星月夜
どこかで河鹿がないている
ああ
友の逝ったふるさとの秋が
もうすぐ訪れる
去りゆく季節と
実りくる季節
夏の夕べ
満天の星が
巡りゆく人の世の歌を
うたっている