メロス楽譜 M1002 第2刷
木下杢太郎の詩から
作曲者のことば
多田 武彦
1951年1月の関西学院グリークラブ第18回リサイタルで、初めて木下杢太郎作
詩・山田耕筰作曲の「夕やけの歌」を聴いた。詩人木下杢太郎の書いた「南蠻寺
門前」の中の詩に、山田耕筰が作曲した名曲である。
「夕焼けこやけ/曲陀の他の/山椒の魚は/きらきら光る・・・・・・」と続く言葉と
共に情緒纏綿の旋律が流れ、西国の美しい夕映えの景観を想像しながら、関西学
院グリークラブの名演奏を聴いた。数日後古本屋で、木下杢太郎の詩集「食後の
唄」をもとめ、繰り返し読み耽った。
 しかし、私が木下杢太郎の詩に作曲したのは、1960年、横浜国立大学グリーク
ラブから新曲の委嘱があったときである。東京に移り住んで4年目、江戸情緒に
心酔しきった頃でもあったので、冒頭に「両国」を、終曲に「市場所見」を配
し、四曲による組曲にまとめた。後に、三曲目に「柑子」を入れて現在の姿にし
ている。
 北原白秋等と共に「パンの会」を起こし、主に東京市内で毎週会合を開き日本
近代詩に新風を吹き込んだ杢太郎の詩風は、白秋の「東京景物詩」等と共に、首
都圏に住み着いた私にとっては、またとないよすがとなった。
終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御礼を申し上げる。
1997年10月