メロス楽譜 M1003 第4刷
優しき歌
作曲者のことば
多田 武彦
1968年3月に卒業の立命館大学メンネルコールのメンバーから「卒業記念に後
輩たちに新曲を贈りたいので、お願いしたい」との依頼があった。この時は、立
命館大学からそれほど遠くない桂離宮の竹林を背景とした、詩人草野心平先生の
詩「桂離宮竹林の夜」を冒頭に置き、男声合唱組曲『蛙』を作曲した。
 このことがあってか、1971年3月の卒業生たちからも同じ趣旨による新曲の委
嘱があった。
「東大工学部出身の建築家であり、且つ詩と音楽とをこよなく愛した詩人立原
道造」の、あの高原の大気のように透明で、あの高原の落葉樹林のように美しく
変化(へんげ)する詩風に、多くの人と同様私も学生時代から心酔しきっていたので、これ
をモノトーンのア・カペラ男声合唱組曲『優しき歌』にまとめた。
 草野心平と立原道造という対照的な詩による男声合唱組曲を、それぞれの後輩
たちは、それぞれの詩人の精神を汲んだ名初演を果たしてくれた。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御礼を申し上げる。
1997年11月