メロス楽譜 M1004 第3刷
ソネット集
作曲者のことば
多田 武彦
1971年、立命館大学メンネルコールからの二度目の新作委嘱の際、私は男声合
唱組曲『優しき歌』を作曲した。詩人立原道造の、あの高原の大気のように透明
で、あの高原の落葉林のように美しく変化(へんげ)する詩風を、モノトーンのア・カペラ
男声合唱組曲にまとめた。
 しかしどういうわけかこの組曲は、その後演奏される機会がすくなかった。
1990年、立教大学グリークラブが、久しぶりにこの組曲を採り上げてくれた。
そしてその翌年、指揮者の北村協-さんの「還暦祝賀演奏会での合同演奏曲」の
作曲依頼と同時期に、立教大学グリークラブから初めて新作の委嘱があった。
 立命館と立教の頭文字がそうさせた訳でもないのに、私は再び「立原道造のソ
ネット(十四行詩)」に題材を求めた。「歌うような語律をもつ独特な十四行
詩」はこの時も「東大工学部建築学科出身の詩人が描いた、パステルカラー調の
外観パースペクティヴ(透視図)」を見るように、淡い端麗さをもって私に迫っ
ていた。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御礼を申し上げる。
1998年1月