メロス楽譜 M1005 第2刷
水墨集
作曲者のことば
多田 武彦
 阪急沿線の清荒神(きよしこうじん)の境内に鐡齋(てっさい)記念館があって、富岡鐡齋の書や水墨画が
展示されている。
「中国の伝統を守りながら、その上に日本人としての独自の境地を拓いた
鐡齋の画風」は、極めて正統的かつ男性的であり、私はこよなく鐡齋に心酔
しきって来た。ア・カペラの男声合唱曲も水墨画のモノ・トーンの美しさに
似て、私に深い感動を与えてくれる。
 こんな私だから、北原白秋先生の詩集「水墨集」を見過ごす筈はなかった
が、作曲することができたのは、関西大学グリークラブの委嘱を受けた1981
年で、処女作『柳河風俗詩』から27年も経ってからであった。
 私は子供の頃から、絵画も書道も不得手であった。この組曲を聴くたび
に、「ア・カペラの男声合唱」という筆で、水墨画をひとつ書いてホッとし
たことを思い出す。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、
厚く御礼を申し上げる。
1998年7月