メロス楽譜 M1010 第1刷
尾崎喜八の詩から・第二
作曲者のことば
多田 武彦
 この組曲は、坂田真理子(本名・壽美)先生の、神奈川大学フロイデ・
コール常任指揮者就任三十周年記念委嘱作品として1986年に作曲した。
 坂田先生は1945年に東京音楽学校(現・東京芸術大学)を卒業後、1983年
まで幾つかの高等学校に勤務、永年にわたり音楽教育の分野で多大の成果を
収められた。その傍ら1961年から1990年の問、母校の東京芸術大学の講師に
招かれ、多くの人材の輩出に尽力され、同時に日本の合唱界の発展にも寄与
された。
 作曲を依頼されて、どの詩人の詩を選ぼうかと考えていたとき、ふと思い
付いたのが第四曲の「田舎のモーツナルト」である。詩人尾崎喜八先生の詩
群の中にあって永年にわたって多くの愛読者に支持されてきたこの、「田舎
のモーツアルト」の中の、「新任の若い女の先生が孜々(しし)としてモーツアルト
のみごとなロンドを弾いている」のくだりで、戦後すぐに教鞭を取られた若
かりし頃の坂田先生の姿をオーバーラップさせながら、作曲してみた。
 尾崎先生の清廉な詩情のおかげで、作曲後13年以上の間、多くの合唱愛好
の方々によって歌われてきたが、評判のいいのはやはり「田舎のモーツアル
ト」である。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、
厚く御礼を申し上げる。
1999年11月