メロス楽譜 M1018 第1刷
尾崎喜八の詩から・第三
作曲者のことば
多田 武彦
 私が京大男声合唱団の学生指揮者をしていたとき、初めて作曲家清水脩先
生(故人)に会った。卒業後「会社勤めをしながら、日曜作家のつもりで
ア・カペラの男声合唱組曲を書いて行け」とすすめられた。そして先生から
は、「日本歌曲や合唱曲は、西洋音楽の構築性と日本の詩歌による複合芸術
だから、詩自体に高い音楽性のあるものを選ぶように」との薫陶を受けた。
 北原白秋・草野心平・中原中也・伊藤整・三好達治などの諸先生の詩は、
筆法こそ違え様々な音楽性があり、さらに絵画性があった。
1973年に初めて作曲させて頂いた尾崎喜八先生の詩には、清廉さと謙譲さ
を合わせ持った響きと光彩があっで、他の先生の詩によるものとはまた異
なった男声合唱組曲が出来た。
 今回出版するのは尾崎喜八先生の詩による五番目の男声合唱組曲で1992年
の作。先生の詩の中では数少ない「十四行詩」を二曲目と四曲目に配した。
四曲目の「馬籠峠」の「やがて立つ馬籠の峠」から曲尾にかけて書き綴って
いたとき、この宿場を離れて行かれる尾崎先生の後ろ姿が、見え隠れしたよ
うに思われて、胸が熱くなったことを思い出す。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、
厚く御礼を申し上げる。
2004年3月