メロス楽譜 M1020 第1刷
山の印象
作曲者のことば
多田 武彦
1954年以降、合唱組曲を書き初めてから約10年間は、作曲家・清水脩先生の助
言に従い、勤務の傍ら日曜作家のつもりで作曲し続けた。1963年には芸術祭奨励
賞を頂いたが、勤務先での管理職の仕事が多忙を極め、その後4~5年の間は作曲
を休んだ。
1967年に、明治大学グリークラブから新曲の委嘱があり、男声合唱組曲『雨』
を書いた。詩風の異なる四人の詩人の詩による組曲であったが、雨の変容の妙に
支えられて好評を博し、名初演もあって爾後愛唱され続けた。
 丁度同じ時期に上智大学グリークラブからも新曲の委嘱があった。『雨』の成
功に勇気づけられて、五人の詩人の詩による男声合唱組曲『山の印象』を作曲し
た。これも名初演をして頂いたが、どういうわけかその後愛唱される機会が少な
かった。
 こういう場合は「曲の作り方」や「組曲としての構築性」に問題があることが
多いので、何度も見直してみたが思うようにならず、36年が経過した。
 2003年、北海道男声合唱祭実行委員会からの委嘱作品『雪明りの路・第二』
(伊藤整先生の詩)を完成した。この折、上智大学グリークラブOB諸氏のご了
解を得て、組曲『山の印象』の第3曲「山に来た雪」を組曲『雪明りの路・第
二』の3曲目に配置した。この際、懸案の組曲『山の印象』改訂版を作ることと
し、詩聖・三好達治先生の高名な詩「遠き山見ゆ」を、組曲『山の印象』改訂版
の3曲目に配置した。また従来の4曲についても、詩情と曲想の一層の融和を図
り、同時に歌い易くした。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御礼を申し上げる。
2005年1月