メロス楽譜 M1021 第2刷
叙情小曲集
作曲者のことば
多田 武彦
 男声合唱組曲『叙情小曲集』は、立教大学グリークラブOB男声合唱団からの委
嘱により2003年に作曲した。この合唱団の指揮者・高坂徹氏は、今までにも私の
作品を数多く演奏しているが、常に「ケレン味のない正統的な解釈」で対処して
くれており、安心して任せられる指揮者の一人である。
 その彼から「一度、多田の新作の初演の指揮をしてみたい」との申し出があっ
た。そして多くの団員の希望で「室生犀星先生の詩による組曲を」ということに
なった。
 私が室生先生の詩に作曲したのは、旧制高校在学中の17歳の時「寂しき春」を
独唱曲にしただけ、今振り返ってみると恥ずかしい思いの作品である。
 爾後、先生の詩に作曲を試みたが、室生先生の詩の深層心理の部分の作曲が思
うようにならず、50年の歳月が流れた。
 そんなわけで最初は難渋したが、詩集の自序に善かれた先生の一節に後押しを
され、一気に書き上げることができた。そこには、次のように記されていた。
  わたしは本集にあつめた詩を自分ながら初々しい作品であること、少年の
 日の交じり気のないあとけない真心をもって書かれたこととを合わせて、い
  くたびか感心をして朗読したりした。ほんとに此詩集にある小品な詩は恰も
 「小学読本」を朗読するやうに、率直な心で読み味ってもらへれば、たいへ
 ん心うれしく感じる。・・・・
 演奏される諸兄におかれても、室生先生のこのお言葉の意を戴して、しみじみ
と合唱していただければ幸いである。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御札を申し上げる。
2005年9月