メロス楽譜 M1025 第1刷
冱寒小景
作曲者のことば
多田 武彦
 2001年に創立30周年を迎えた小田原男声合唱団から新曲の委嘱があっ
た。「小田原に由縁のある詩人の詩に作曲してほしい」との要望に従い、
大木惇夫先生の詩による組曲『西湘の風雅』を作曲した。外山浩爾先生指
揮による名演が続いた。
 そんなご緑で、2006年の創立35周年に際しても、新曲の委嘱があった。
小田原に由縁のある詩人となれば、何と言っても北原白秋先生。今回も初
演の指揮は外山浩爾先生。外山先生の御尊父国彦先生は「北原白秋作詩・
山田耕筰作曲」の多くの歌曲を日本中に広められた方。そうしたことか
ら、北原白秋先生の詩に題材を求めた。
 昨年晩秋以降の厳寒は、75歳の虚弱体質の私には大層堪(こた)えたが、逆に白
秋先生の冬の詩を選ぶことが出来た。「目前の山峡(やまかい)の良夜と、天空の宵の
明星の輝き」「寒日の、鵡鵠(せきれい)の飛翔」「日向ぼっこへの郷愁」「幼少時の
冬の寂蓼への追憶」「小田原近郊、聖ケ嶽の雪景色と、孤独を楽しむ詩人
の閑寂」「時雨と、木々の遠望と、暮鐘の中での屈託のない会話」などな
ど、何時に変わらぬ白秋先生の詩情と芳潤な語彙と音楽性に感動しなが
ら、私自身も身の回りの『冱寒小景 』に浸りつつ、水墨画のような65作目
の男声合唱組曲を書き上げることが出来た。
 終わりにこの組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、
厚く御礼を申し上げる。
2006年10月