メロス楽譜 M1028 第1刷
ソネット集・第二
作曲者のことば
多田武彦
 西暦2007年に創立50周年を迎える信州大学グリークラブから、その記念演奏会
のための新曲の委嘱があった。「できることなら、信州に所縁のある詩人の詩
に作曲してほしい」とのこと。
 私は今まで、立原道遣先生の詩による男声合唱組曲を二作品作曲している。
1968年の『優しき歌』と、1991年の『ソネット集』がそれである。
 東京大学工学部建築学科を卒業後、一流建築設計事務所にも勤務された立原
先生は、学生時代から勤しんでおられた詩作にも非凡の才能を発揮され、十四
行詩(ソネット)を主体とする多くの詩を書き遺された。不幸にして24歳の若さ
でこの世を去られたが、建築家らしい堅確な構築力を持ちながらも、日本の四
季の肌理細かい詩情や、若者らしい喜怒哀楽の滲み出た心情の吐露は、今に至
るまで老若男女を問わず読者の心を掴み続けている。
 選んだ六篇の詩には、特に相互に関連は無いが、前作同様、詩の向こうに見
える詩人の「高原の落葉林のように変化する詩風」を、モノトーンのア・カペ
ラ男声合唱組曲にまとめた。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚
く御礼を申し上げる。
2007年6月