メロス楽譜 M1052 第2刷
日本の舟歌
作曲者のことば
多田武彦
 私ごとで恐縮だが、私の祖父は創業期の松竹(株)の役員だったせいか、将
来に備えて、初孫の私が小学生の頃から「歌舞伎・映画・大衆芸能・邦楽・歌
謡曲・日本民謡などの見聞」を命じた。このせいか終戦後の15歳の頃から
「ミュージカル映画の監督」を志し、独学で「和声学・対位法・楽式論など」
を学び始め、専ら山田耕筰先生の日本歌曲をお手本に、名曲の分析に注力し
た。
 山田耕筰先生の「日本的旋律に付けられた西洋音楽の和声の見事さ」や「こ
れら洋の東西の異文化の間に開花した複合芸術のすばらしさ」に心を打たれ、
また清水脩先生のご助言もあって、男声合唱組曲を作曲する傍ら「永い歳月を
経て伝承されてきた優れた日本民謡」を、(極力、本歌に忠実に、また本歌の
特性を汚さないように心掛けながら)ア・カペラ男声合唱の機能を駆使して書
き綴ってきた。永年にわたり、男声合唱愛好の方々から、これらの日本民謡の
出版を求められてきたが、私も老い先が短くなってきたことでもあり『日本民
謡による男声合唱組曲・日本の舟歌』を出版することにした。
 (なお、この作品は崇徳高等学校グリークラブの委嘱により1976年に書いたも
のであるが、今回の出版を機に一部改訂をおこなっている)
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚
く御礼を申し上げる。
2007年5月