メロス楽譜 M1056 第1刷
北国・第二
作曲者のことば
多田 武彦
 2006年秋、男声合唱団秀声会から新曲の委嘱があった。
 東京都合唱連盟の理事長で高名な声楽家の片野秀俊先生主宰の合唱団であ
ること、また団長の柴三義さんも、私の学生時代からの旧友高橋克彦氏(故
人)主宰の楽友合唱団の主力メンバーであったこと、を存じ上げていたの
で、即座にご意向を応諾した。
 2007年厳冬、ご挨拶かたがた秀声会を訪れた処、山形県人の多いことが
解った。丁度その頃、以前に作曲した男声合唱組曲『北国』の増補改訂版を
検討していた折でもあったので、詩人丸山薫先生の詩集を丹念に読み返して
みた。
 丸山先生は当初、高等商船学校へ入学されたが、後に第三高等学校から東
大文学部に進まれ、卒業後は三好達治先生・堀辰雄先生とともにわが国詩壇
において活躍された。1945年春に戦火に遭い山形県岩根沢に移住、その地の
小学校で教鞭をとりながら、山村生活の所見を集めて、風物詩集『北国』
『仙境』『花の芯』などを詩作された。
 この組曲では丸山先生の清澄な抒情と人間愛に満ちた五編の詩を選んだ
が、とりわけ私が感動的に拝読し、この組曲の主軸にさせて頂いたのが第三
曲の「母の傘」である。
 「詩人が、年寄られた母親を手許に呼び寄せて、共に過ごされた日々への
回想」「亡くなられてから間もない秋雨の日に、形見の老人用の絹張りの傘
をさして仕事に出掛けるその傘の中に母の魂を感じ、共に遠山の紅葉を眺め
る詩人の心」に感泣した。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、
厚く御礼を申し上げる。
2009年2月