メロス楽譜 M2009 第1刷
秋風裡
作曲者のことば
多田 武彦
 詩人・三好達治先生の生地は大阪市東区(現・中央区)南久宝寺町。私の生
地の南区(現・中央区)大宝寺町西之丁から北へ2粁程の所。また先生の第三
高等学校以来の親友であった梶井基次郎先生の菩提寺は、奇しくも私の家の菩
提寺と同所。
 そんなご縁を感じて、私は学生時代から三好先生の詩にも作曲を試みたが果
たせず、四半世紀を経た1977年(私が47歳)に「海に寄せる歌」「わがふるき
日のうた」「追憶の窓」「秋風裡」の男声合唱組曲を一気に作曲した。
 周知のとおり三好先生の詩に漂う抒情は、時には濃厚に、時には可憐に変化
する。しかしその底流には常に強い、三好先生ならではの人生観・宗教感が存
在する。先生のこの特質を見失って小利口に音だけ追い掛けて作曲すると恥を
かく。
 前述の1977年に作曲した四組曲のうち「秋風裡」以外の三組曲は、高い識別
力を待った多くの男声合唱団によって愛唱されてきた。これに反し組曲「秋風
裡」だけは取り上げられる機会が少なかった。永年の反省の結果、組曲構築性
の脆弱性のほかに、前述の先生の特質を見失って小利口に音だけ追い掛けすぎ
ていたことが解った。
 昨年来、この組曲を初演してくれた東京工業大学シュヴアルペンコールの有
志の方々の熱意と激励にほだされ、増補改訂版を完成、出版することが出来
た。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚
く御礼を申し上げる。
2010年6月