メロス楽譜 M2014 第1刷
南国の空青けれど
作曲者のことば
多田 武彦
 1971年、私は初めて詩人立原道遣先生の詩に作曲した。男声合唱組曲『優しき
歌』である。この組曲は初演の名演にも拘わらず、爾後19年間演奏される機会が少
なかった。
 1990年に立教大学グリークラブが久しぶりにこの曲を取り上げてくれた。
 その翌年、指揮者故北村協一先生の還暦祝賀演奏会にあたって、立教大学グリー
クラブから新曲の委嘱があり、男声合唱組曲『ソネット集』を作曲した。この折の
数回の名演奏は、聴衆から高い評価を受けた。
 立原道造先生は東京大学工学部建築学科を卒業後、一流建築設計事務所に勤務し
ながら、学生時代からいそしんでおられた詩作にも非凡の才能を発揮され、十四行
詩(ソネット)を主体とする多くの詩を書き残された。不幸にして24歳の若さでこ
の世を去られたが「建築家らしい堅確な構築力」と「日本の四季の肌理細かい詩情
や、若者らしい喜怒哀楽の率直な吐露」は多くの読者の心を掴み続けている。
 2007年にも私は立原先生の詩による組曲『ソネット集・第二』を作曲したが、こ
こ数年怪我や病気が多くなり、今のうちにまだ書き残している作品を仕上げておこ
うと十数篇の組曲を書いてきた。そのうちの立原先生の詩による男声合唱組曲は今
回出版される『南国の空青けれど』(初演:立教大学グリークラブ)と後日出版予
定の『ふるさとの夜に寄す』(初演:白門グリークラブ)である。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御礼を申し上げる。
2011年6月