メロス楽譜 M2023 第1刷
蛙・第二(改訂版)
作曲者のことば
多田 武彦
 1954年以降、私は九十近い男声合唱組曲を作曲してきた。その内のほぼす
べてについて、我が国の男声合唱愛好の諸兄によって名初演をしていただいた。
しかし後になって反省してみると、私の腕の未熟さもあって、七つほどの作品に
ついて「このまま出版しては恥ずかしいし、入念に推寂して改訂してみなくて
は」と考えるようになった。この中に男声合唱組曲「蛙・第二」があった。
 この作品は、東京六大学合唱連盟(以下東京六連という)第30回記念定期演
奏会の合同演奏のために東京大連からの委嘱作品として1981年に作曲したも
ので、北村協一先生(故人)指揮・300人余の東京六連の諸兄によって、同年
5月名初演された。
 しばらくして久しぶりに、恩師・清水脩先生(故人・1986年ご逝去)から
電話があった。「各曲の出来栄えはまずまずだが、組曲としての構成が良くない
し30分弱の演奏時間も長すぎる。私見としては、第4曲を廃止し、第5曲を簡
潔化すれば、かなり良くなる筈だ」とのご教示を頂いた。
 爾後30余年の間、折にふれ改訂を試みたが、昨年なんとか目処がつき、今回
改訂版を上梓することになった。
 草野心平先生の作品は、漢語の多い東洋的観念詩が特徴的だと謂われている。
私は今まで、心平先生による男声合唱組曲「富士山」「草野心平の詩から」
「蛙」「北斗の海」「蛙・第二」「草野心平の詩から・第二」「草野心平の詩か
ら・第三」の7作品を作曲してきた。先生の「漢語の響きの力強さ」は男声合唱
組曲の構築性を強固にするし、「骨太ながらも広袤(こうぼう)たる抒情」は男声合唱組曲の
装飾性に爽やかな微風を送るためか男声合唱愛好の諸兄に永年愛唱されてきた。
今回の「蛙・第二(改訂版)」の出版を機に、また一つ男声合唱愛好の諸兄によ
る名演が期待されるだろう。
 終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏に、厚く
御礼を申し上げる。
2013年3月