メロス楽譜 M2030 第1刷
水墨集・第二
作曲者のことば
多田 武彦
 男声合唱愛好の諸兄から「多田作品は何よりも詩の選択が良い」との
お褒めの言葉をいただくが、山田耕筰・清水脩・畑中良輔の諸先生から
限られた機会ではあったが、異口同音に受けたご薫陶に負うところが多
い。即ち。
 日本歌曲や合唱曲の作曲に際し、詩の中の要所要所に「春夏秋冬・花
鳥風月・喜怒哀楽・起承転結」が巧に配置されている詩を選ぶことが大
切だ。また、歌曲や合唱曲は「詩と音楽の複合芸術」であるから、ある
時は詩に寄り添うように、またある時は詩と対峙する姿勢で対処するこ
とが肝要だ。誌の内容を重視過ぎたりすることは禁物。とのご指導を受
けた。
 北原白秋・草野心平・中勘助・中原中也・伊藤整・木下杢太郎・丸山
薫・堀口大学・津村信夫・田中冬二・立原道造・尾崎喜八・大手拓治・
三好達治・百田宗治・山村暮鳥・大木惇夫・室生犀星・伊東静雄の諸先
生方の詩歌が私の作品の大部分を占めている。
 私がまだ大学生の頃、作曲について清水脩先生からご教導を受けた折
に「まず山田耕筰先生の歌曲集を徹底分析しなさい」と指示された。何
度もくり返し実行していくと「白秋先生と耕筰先生との問の協調と対峙
の妙」に頭が下がった。こんなこともあって、白秋先生の詩による男声
合唱組曲を最も多く作曲するという結果となった。
 処女作の男声合唱組曲『柳河風俗詩』を作ってから60年が経ち、私も
84歳を通り過ぎた。
終わりに、この組曲の出版にご尽力くださったメロス楽譜西野一雄氏
に、厚く御礼を申し上げる。
2014年12月