音楽之友社 第7集
第七集の出版にあたって
 このたび,前六集に引き続き,音楽之友社のご好意により,中原
中也先生の詩による男声合唱組曲の三作品を,出版していただくこ
とになりました。
 私が,中原中也の詩に初めて出合ったのは,1947年旧制大阪高等
学校一年の時。クラスメイトとの学力の差が開き,悩んだ末,当時
の国語の担当であった犬養孝先生(万葉集研究の大家)に相談した
処,「君は作曲の勉強を始めているそうだから,撓まずそれを続けな
さい。それから,書物のリストを差し上げるから,興味あるものか
ら少しずつ,読みなさい」と励まして下さいました。
 このリストの中に,中原中也の詩がありました。
 何度も読み返し,いくつかの独唱曲を作曲しました。
 このうちの「北の海」「汚れっちまった悲しみに」「雲雀」「六月
の雨」「月の光」「米子」「早春の風」「閑寂」「また来ん春」「冬の日
の記憶」「冬の長門峡」は,その後,男声合嶋曲に書き替え,この楽
譜の三作品の中に,納まっています。
 いずれも,青春の悩める日々の中で綴った旋律だけに,69歳の老
人となった今の私にとっては,只管,懐かしい作品です。
 こうした機会を与えて頂いたことについて,全国の合唱愛好のか
たがたに,心から感謝するとともに,この出版にご尽力下さった,
音楽之友社の方々,また,これら作品に関係のあったみなさんに,
厚く御礼を申し上げます。
平成12年1月10日 多田武彦